いびき
いびきとは、眠っている間に喉の筋肉がゆるみ、空気の通り道(気道)が狭くなることで、周囲の組織が振動して生じる音です。笛に息を吹き込むと音が出るのと似た仕組みです。
いびきの種類と原因
いびきには一時的に誰にでも起こり得るものと、病気が背景にあるものがあります。
一時的ないびき
疲労、飲酒、仰向け寝などで筋肉がゆるみ、気道が狭くなることで生じます。
病気が関係するいびき
肥満や扁桃肥大、鼻づまり、睡眠薬の影響などで気道が慢性的に狭くなるといびきが起こります。とくに注意が必要なのは、睡眠時無呼吸症候群で、いびきに加えて睡眠中に無呼吸を繰り返すのが特徴です。
いびきの治療
原因が生活習慣や一時的な要因であれば改善が期待できます。睡眠時無呼吸症候群が原因である場合には、いびきを治すだけでなく、日中の強い眠気や高血圧などの生活習慣病の改善にもつながります。
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に何度も呼吸が止まる病気です。10秒以上の呼吸停止(無呼吸)や呼吸が浅くなる状態(低呼吸)が、1時間あたり5回以上みられ、日中の眠気や集中力低下などの症状を伴う場合に診断されます。
病態
この病気は、睡眠中に喉の奥(上気道)が塞がれて空気の通り道がふさがれてしまうことで起こります。空気が通りにくくなると、振動音として「いびき」が生じ、さらに気道が完全に閉塞すると、呼吸が止まってしまいます。起きている間は、喉の周りの筋肉が働いて気道が開いた状態を保っていますが、眠っている間は筋肉の緊張がゆるみ、気道が狭くなりやすくなります。
その上で、背景には以下のような解剖学的・身体的な特徴があることが多く、これらが気道の閉塞を助長します
- 肥満
- 下顎が小さい、後退している
- 扁桃や舌が大きい
- 首が太く、気道がもともと狭い体型
これらの特徴をもつ方では、横になるだけで気道が自然に塞がれてしまいやすく、仰向けで寝ると症状が悪化することもあります。このような構造的な問題と、睡眠時の筋肉のゆるみが組み合わさることで、空気の通り道が狭くなり、いびきや無呼吸が繰り返される状態になります。
症状
特徴的なのは、自覚症状が乏しく、自分では気づきにくい点です。多くの場合は、ご家族からの指摘がきっかけで発見されます。以下のような症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
- 大きく断続的ないびきをかき、仰向けになると悪化する
- 眠っている間の呼吸が止まる
- 夜中に息苦しさや窒息感で目が覚める
- 熟睡感がない、朝起きたときに頭が重い
- 日中の強い眠気や集中力の低下、仕事中の居眠りがある
- 倦怠感や起床時の頭痛、気分の落ち込みがある
そのほかの病気との関係
睡眠時無呼吸症候群は、単なる「いびき」や「眠気」の問題ではありません。睡眠中の呼吸停止は、体内の酸素不足と断続的な覚醒を引き起こし、交感神経を過剰に刺激します。その結果、治療せずに放置していると、次のような疾患の発症や悪化に深く関与することがあります。
放置すると心筋梗塞や脳卒中などの重大な病気のリスクが高まるため、早めの対応が大切です
肥満との関係
肥満は最大の危険因子とされており、体重が10%増えると、睡眠時無呼吸症候群のリスクが約6倍になると研究で報告されています。一方で睡眠時無呼吸症候群があると、睡眠の質の低下によるホルモンの異常や日中の活動の低下、交感神経の亢進により肥満が助長されます。このように睡眠時無呼吸症候群と肥満は相互に関連しています。
睡眠時無呼吸症候群の検査
当院では、睡眠時無呼吸症候群が疑われる方に対して、自宅で行える簡易検査をご案内しています。この検査では、鼻の気流・酸素の状態・胸の動き・心拍数などを睡眠中に記録し、呼吸の乱れの有無を客観的に評価します。検査は一晩だけご自宅で実施でき、普段どおりの睡眠環境で行えるのが特徴です。症状があるかどうかだけでなく、客観的なデータに基づいた診断や治療方針の判断に欠かせない検査です。当院で行う簡易検査は、帝人ヘルスケアやフクダ電子といった国内大手医療機器メーカーと連携して実施しています。これらのメーカーは睡眠時無呼吸症候群の検査や治療の機器の分野で豊富な実績を持ち、安心して検査を受けていただける体制を整えています。
血液検査における異常
睡眠時無呼吸症候群では血液検査で多血(貧血の逆で血液の量が多い状態)や軽い炎症の持続を認めることがあります。これらの検査値の異常があったからといって、すぐに睡眠時無呼吸症候群と診断されるわけではありませんが、疑うきっかけになります。これらの検査値の異常を認め、患者さんの病歴や状態を評価した上で必要だと判断した場合には、簡易検査をご案内することがあります。
CPAP(シーパップ)療法
睡眠時無呼吸症候群に対してもっとも効果的な治療法のひとつです。日本語では「持続陽圧呼吸療法」と呼ばれ、眠っている間に鼻マスクから空気を送り込み、喉の奥(上気道)が塞がらないように気道を広げておく治療です。睡眠中、患者さんは気道が狭くなり、空気が通れなくなることで呼吸が止まってしまいます。CPAP療法では、一定の圧力で空気を送り続けることで、気道の閉塞を防ぎ、呼吸を安定させることができます。
使用する装置
治療には次のような装置を使用します。装置はとても静かで、慣れれば違和感なく使える方が多いです。
- 鼻に装着するマスク
- 空気を送るポンプ(本体)
- 静かに圧を調整するホースや加湿器
当院では帝人ヘルスケアやフクダ電子といった国内大手メーカーが提供する機器を使用しています。装置は静音性に優れ、長期にわたって安心してご利用いただけるよう設計されています。患者さん一人ひとりに合った機器・マスクを調整し、快適に治療を続けられるようサポートいたします。
期待される効果
- 日中の強い眠気やだるさが改善される
- 熟睡感が得られ、朝の目覚めがスッキリする
- 集中力が改善し、仕事の効率が上がる
- 高血圧や心臓病、脳卒中のリスクが下がることが期待される
- 交通事故やヒヤリとする場面が減る
治療で大切なこと
CPAPは「続けること」がとても大切な治療です。1日4時間以上、週に5日以上の使用が効果的とされており、習慣にすることで体調が大きく改善します。慣れるまで違和感があることもありますが、マスクのサイズやフィット感を調整することで多くの方が使いこなせるようになります。
当院での診療の流れ
当院では、睡眠時無呼吸症候群が疑われる方に対して、自宅で行える簡易検査をご案内いたします。簡易検査の結果を元に,より詳しい評価のために終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)が必要と判断された場合には専門病院へご紹介いたします。詳細は以下の図を参照してください。また、肥満を合併している方には、体重管理の重要性を説明し、糖尿病がある場合はGLP-1受容体作動薬(マンジャロ®)やSGLT2阻害薬の使用を検討します。糖尿病のない方には、生活指導を中心に対応いたします。「呼吸が止まっていると言われた」「朝スッキリしない」といった症状が気になる方は、まずはご相談ください。

他院でCPAP治療中の方へ
CPAP治療は毎晩の継続使用が効果の鍵です。「通院先が遠い」「通院時間を短くしたい」「引っ越しで通院が難しくなった」などの方は、当院で治療の引き継ぎにも対応しております。まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
いびきがあるだけでも検査を受けた方がよいですか?
はい。いびきは気道が狭くなっているサインです。とくに「途中で止まる」「苦しそう」「日中に眠い」などの症状がある方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性がありますので、一度検査を受けることをおすすめします。
危険ないびきの見分け方はありますか?
寝ている時に息が止まることで死ぬことはありますか?
眠っている間に息が止まっただけで、その場で窒息することはまれです。ただし、息が止まると血中の酸素が下がり、体が緊張状態になって血圧が急に上がる・脈が乱れることがあります。これが繰り返されると、夜間の突然死や心筋梗塞・脳卒中などのリスクが高くなることが分かっています。CPAP治療を続けると、日中の眠気がよくなり、血圧も下がりやすくなって、心臓や血管への負担を減らせます(※効果の出方には個人差があります)
太っていないのにいびきや無呼吸になるのはなぜですか?
日本人はあごや顔の骨格の影響で、太っていなくても気道がせまくなり、いびき・無呼吸が起きやすいことがあります(例:あごが小さい/後ろに下がっている)。また、鼻づまり・扁桃が大きい・仰向けで寝る・加齢・飲酒や睡眠薬でも悪化します。
眠ると喉の筋肉がゆるみ、舌や“喉の奥のやわらかい部分”が後ろに下がって空気の通り道がせまくなるためです。
家族に「息が止まっている」と言われる、強い日中の眠気がある方は、自宅の簡易検査や精密検査をご相談ください。
睡眠時無呼吸症候群でもいびきをかかない人もいますか?
います。いびきは“喉が振動するときの音”なので、舌の付け根あたりで静かに道がふさがる、一気に閉じて音が出る前に止まるといった場合は、音が小さくても無呼吸が起きます。あごが小さい/後ろに下がっているなど骨格の影響で、太っていなくても起こり得ます。いびきの大きさは重症度の目安になりません。家族に「息が止まっている」と言われる、強い日中の眠気がある方は検査をご相談ください。
CPAPを始めたら一生使わないといけませんか?
CPAPは対症療法であり、使っている間は症状をしっかりコントロールできます。ただし、使用をやめると無呼吸が再発することが多いため、継続的な使用が基本となります。体重減少などによって無呼吸の程度が軽くなれば、治療方針の見直しを検討することもあります。
CPAPの装置は苦しくありませんか?
CPAPは静かで空気の圧力も適切に調整されているため、多くの方が数日〜数週間で慣れることができます。マスクのサイズやフィット感が合っていないと違和感が強くなりますので、当院では個別に調整・サポートいたします。
CPAPの費用はいくらですか?
CPAPは保険が使えます。自己負担が3割の方で、月およそ4,000〜6,000円が目安です(通院と機器レンタルを含みます)。
※負担割合(1〜3割)や公費制度の有無によって金額は変わります。
肥満を解消することで睡眠時無呼吸症候群が治ることはありますか?
肥満で気道が狭くなっていることが原因の場合には、体重を減らすと、いびきや無呼吸が軽くなることがあります。軽症の方では、体重が落ちると無呼吸がほとんど起きなくなる場合もあります。ただし、あごの形や鼻づまりなど別の原因があると、体重が標準でも無呼吸が残ることがあります。CPAPを自己判断で止めず、必要に応じて検査で効果を確かめながら、設定や治療法を調整していきましょう。
睡眠時無呼吸症候群のセルフチェック方法はありますか?
はい。STOP-Bangという8項目のチェックがあります。次のうち3つ以上当てはまれば、検査をおすすめします。
- 大きないびき
- 日中の強い眠気
- 寝ている間の「息とまり」を指摘された
- 高血圧がある
- 体重が重め(BMIが高い)
- 50歳以上
- 首まわりが太い(目安:40cm以上)
- 男性
※このチェックは目安です。確定には自宅の簡易検査や精密検査が必要です。
