HbA1cが高い、血糖値との違い

血糖値とは

血糖値とは、血液中のブドウ糖の濃度です。食事や運動などの影響も受けるために、常に一定ではありません。空腹時血糖値とは10時間以上食事をとらない状態で測定した血糖値です。安定した数値が得られるため、診断や外来での経過観察において重要とされています。ただし、外来診療で毎回絶食して測定するのは難しいため、その場合には食事からの時間を問わず測定する「随時血糖」で評価します。血糖値はその瞬間の状態を反映するため、一時的な変動を評価するのに役立ちます。一般的には、空腹時血糖で100 mg/dL未満が正常とされ、126 mg/dL以上で糖尿病が疑われます。また、随時血糖で200 mg/dL以上の場合も糖尿病が強く疑われます。


血糖値スパイク

血糖値スパイクとは、食後に血糖が急激に上がり、その後短時間で下がる状態です。つまり、血糖値の乱高下を指します。空腹時血糖が正常でも起こることがあり、通常の診療ではわかりにくいです。糖負荷試験(ブドウ糖を含んだ飲み物を飲み、その後の血糖の変化を測る検査)、血糖自己測定(SMBG)や持続血糖測定(CGM)などを行うことで明らかになることがあります。

血糖値スパイクのリスク

動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクを高めることが知られています。

三大栄養素と血糖値の変化の違い

三大栄養素とは糖質、蛋白質、脂質を指します。血糖値への影響は各栄養素によって異なります。血糖値の急激な変化をもたらす順番は 糖質 > 蛋白質 > 脂質であることがわかっています。

糖質は血糖値を上げやすい栄養素ですが、極端に制限すると健康を損なうリスクもあります。そのため、学会では糖質を控えめにしつつ、蛋白質や脂質・野菜も含めた“バランスの良い食事”を推奨しています。


HbA1cとは

「ヘモグロビン・エーワンシー」と読みます。血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンのうち、糖が結合している割合を示す数値です。赤血球の寿命はおよそ120日であるため、HbA1cは過去1〜2か月間の平均的な血糖状態を反映します。そのため、1回の食事や運動などに影響を受けやすい血糖値と違って、HbA1cは長期的な血糖コントロールの指標として用いられます。糖尿病の診断や治療効果の判定において欠かせない検査です。通常は5.5%前後であり、6.5%以上で糖尿病が疑われます。数値が高いほど長期に血糖が高い状態が続いていることを示し、合併症のリスクも高まります。ただし、貧血や腎臓病など一部の病気では実際の血糖状態より高め、あるいは低めに出ることがあります。そのためHbA1cだけで判断せず、血糖値など他の検査とあわせて総合的に評価します。


HbA1cと平均血糖値の関係

さまざまな研究の結果を元にすると、以下のような関係にあると考えられています。

HbA1c

平均血糖値

6.0%

約 120 mg/dL

7.0%

約 150 mg/dL

8.0%

約 180 mg/dL

ただし、個人差は大きいですので、大まかな目安として理解していただくのが安心です。


HbA1cと糖尿病の管理目標

糖尿病のコントロール目標は、患者さんの状態に応じて以下のように段階的に設定されます。糖尿病治療の目的は、合併症を予防し、健康的な生活を維持することにあります。そのため、まずはHbA1c 7%未満を目指すことが基本的な管理目標となります。HbA1c 7%未満に対応する血糖値としては、空腹時血糖値 130 mg/dL未満、食後2時間血糖値 180 mg/dL未満がおおよその目安とされています。

血糖コントロール目標値

特に65歳以上の方では、加齢に伴う低血糖リスクや 日常生活での体調管理のしやすさ を考慮し、より緩やかな目標設定が必要となります。患者さんの状態や年齢、あるいは低血糖の起こしやすい薬剤の使用状況に応じて、管理目標が決められています。

しかしながら、数値目標はあくまでも目安にすぎません。患者さんの病態や社会的状況や価値観を尊重しながら、相談のうえで個別に管理目標を設定します。当院では、ガイドラインに準じた適切な目標値を提示しながら、患者さん一人ひとりのライフスタイルに合った治療方針を大切にしています。


よくある質問

HbA1cと血糖値の違いは何ですか?

血糖値はその瞬間の血糖の状態を示す数値で、食事や運動の影響を強く受けます。
一方、HbA1cは過去1〜2か月間の平均的な血糖状態を反映する指標です。糖尿病の診断や治療効果の判定には、両方の検査を組み合わせて評価します。

HbA1cが少し高いと言われました。すぐに糖尿病ですか?

HbA1cが6.5%以上で糖尿病と診断される可能性があります。
ただし、一度の検査結果だけでは確定できず、再検査や血糖値の測定を組み合わせて判断します。

境界型(予備軍)とは何ですか?

HbA1cが5.6〜6.4%の範囲、または空腹時血糖が100〜125 mg/dLの範囲を「境界型糖尿病(糖尿病予備軍)」と呼びます。
この段階では糖尿病とは診断されませんが、将来糖尿病になるリスクが高いため、生活習慣の改善が非常に重要です。

血糖値スパイクは健康診断で分かりますか?

通常の健診では空腹時血糖やHbA1cを測定しますが、食後の急激な血糖上昇(血糖値スパイク)は見逃されることがあります。
必要に応じて、糖負荷試験や食後の血糖測定で確認します。

HbA1cはどのくらいが正常ですか?

一般的にHbA1c 5.5%前後が正常値とされます。6.5%以上で糖尿病が疑われ、5.6〜6.4%が境界型(糖尿病予備軍)です。
ただし個人差や他の病気の影響もあるため、必ず医師と相談しながら評価します。

HbA1cや血糖値は低ければ低いほど良いのですか?

数値が低すぎると低血糖の危険があり、特に高齢者では転倒や意識障害につながる可能性があります。
大切なのは「できるだけ低く」ではなく、「その方に合った適切な管理目標」を守ることです。

健康診断で血糖やHbA1cが高いと言われました。すぐに薬が必要ですか?

すぐに薬を始める方もいますが、多くは生活習慣の改善からスタートします。
食事・運動で改善が難しい場合や、血糖値がかなり高い場合に薬を検討します。

食事や生活習慣で血糖値は改善できますか?

はい。バランスの良い食事、適度な運動、規則正しい生活習慣は血糖コントロールに大きく役立ちます。
当院では、患者さん一人ひとりの生活に合わせた改善方法をご提案します。

HbA1cが高いとどんなリスクがありますか?

HbA1cが高い状態が続くと、血管にさまざまな悪影響を与えます。

  • 細小血管症(小さな血管の障害):網膜症、腎症、神経障害などが起こります。
  • 大血管症(太い血管の障害):動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などのリスクが高まります。

これらの合併症は長年かけて進行しますが、HbA1cを良好に保つことで予防・進行抑制が可能です。
そのため、早い段階からの血糖コントロールがとても大切です。

高齢者では管理目標がゆるくなるのはなぜですか?

高齢の方では低血糖による転倒や生活の支障が問題になるため、無理に厳しい数値を目指すのではなく、体調や生活の質を保ちながらコントロールすることが大切です。