花粉症・アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎とは

アレルギー性鼻炎は、アレルギー体質のある方が、ダニや花粉などの原因(アレルゲン)に触れることで、鼻に炎症が起こり、くしゃみ・水のような鼻水・鼻づまりなどが繰り返し起こる病気です。


アレルギー性鼻炎の分類

アレルギー性鼻炎は、症状のあらわれる時期によって大きく2つに分けられます。

通年性アレルギー性鼻炎

一年を通して症状がみられるタイプです。主な原因は室内のダニ(特にハウスダスト中のダニ)であり、最も重要なアレルゲンです。その他、ペットの毛やフケ、カビなども関与します。

季節性アレルギー性鼻炎

特定の季節にのみ症状が強く出るタイプです。代表的なのは花粉症で、日本では春のスギ・ヒノキ花粉が最もよく知られています。そのほか、初夏のイネ科花粉や秋のブタクサ・ヨモギなども原因となります。


アレルギー性鼻炎の症状

アレルギー性鼻炎では、鼻の症状だけでなく、目の不快感や全身への影響が現れることがあります。ここでは代表的な症状を紹介します。

鼻の症状(3大症状)

もっとも特徴的なのは、くしゃみ・鼻水・鼻づまりの3つです。これらは「三大症状」と呼ばれ、多くの患者さんが日常生活で困る原因となります。

くしゃみ

立て続けに何回も出るのが特徴です。特に朝方に強く出やすく、鼻の粘膜が花粉やダニに過敏に反応して起こります。

鼻水

透明でサラサラした水のような鼻水が止まらなくなるのが典型的です。風邪のときのように粘り気のある鼻水とは違います。

鼻づまり

鼻の粘膜が腫れて通り道が狭くなるために起こります。夜間に悪化することが多く、口呼吸やいびき、睡眠の質の低下につながります。

目の症状

アレルギー性鼻炎では、鼻の症状に加えて目のかゆみや充血を伴うこともよくあります。花粉症では特に多く見られ、生活の質を下げる原因になります。かゆみ・充血・涙が出やすく、特に目じりやまぶたの縁がかゆくなるのが特徴です。強くこすると炎症が悪化し、さらに症状が強まることがあるため注意が必要です。

全身への影響

鼻や目の症状にとどまらず、全身の不調として現れることもあります。特に鼻づまりが続くと、睡眠の質や日中の活動に影響します。鼻づまりによって眠りが浅くなり、日中に強い眠気や集中力の低下を感じることがあります。その結果、学業や仕事の効率が下がり、生活の質に大きな影響を与えることもあります。


花粉症について

花粉症とは、花粉を原因としたアレルギー性鼻炎の1つで、花粉が飛ぶ時期だけ症状が出ます。特に日本ではスギやヒノキの花粉が有名で、春先に多くの方が強い症状に悩まされます。ほかにも、イネ科やブタクサなど、地域や季節によってさまざまな花粉が原因になります。最新の全国調査では、日本人の約39%(4割弱)が花粉症と報告されています。

関東地方の花粉飛散時期

花粉症の原因となる花粉は、種類によって飛散する時期が異なります。関東地方では、春のスギやヒノキがよく知られていますが、実は初夏や秋にも別の花粉が飛散し、症状を起こすことがあります。代表的な花粉の飛散時期は以下の通りです。

  • 春(2〜5月):スギ、ヒノキ
  • 初夏〜夏(5〜9月):イネ科
  • 秋(8〜10月):ブタクサ、ヨモギ、カナムグラ

このように、花粉症は春だけでなく一年を通じて起こりうるため、「毎年決まった季節に鼻水やくしゃみが出る」という方は、花粉症の可能性を考える必要があります。


アレルギー性鼻炎の治療

アレルギー性鼻炎の治療は、症状をやわらげ、生活の質を保つことを目的に行います。大きく3つの柱があります。

原因への対策(抗原の回避)

症状を軽くするには、原因をできるだけ避けることが大切です。花粉は、飛散の多い日の外出を控え、帰宅後は洗顔・うがいで花粉を落としましょう。ダニは、寝具を清潔に保ち、湿度を下げて生活環境を整えましょう。

薬による治療(薬物療法)

症状の強さや生活への影響に応じて薬を使います。薬はアレルギーの体質そのものを治すものではありません。飲んでいる間は症状を抑えられますが、やめると再び症状が出ます。先ずは抗ヒスタミン薬を使用し、症状が強い場合は点鼻薬、鼻づまりが強い時にはロイコトリエン受容体拮抗薬を検討します。

花粉が飛ぶ前から始める治療

花粉症のお薬は、症状が出てから飲み始めるだけでなく、花粉が飛び始める前から使い始める方法があります。これは医学的に「初期療法」と呼ばれており、専門家のガイドラインでも効果があるとされています。

どんな効果があるの?

この方法を行うことで、症状が出る時期を遅らせることができ、症状が出ても軽く抑えることができます。その結果、薬の使用量を減らせる場合があり、日常生活や仕事、勉強、さらには睡眠への影響を少なくすることが期待できます。

いつから始めるの?

研究や専門家の指針では、花粉が飛び始める1〜2週間前から治療を始めると効果的だとされています。毎年症状が強く出る方は、花粉の飛散予測を確認して早めに治療を始めると、ピーク時のつらさをぐっと減らすことができます。

体質を改善する治療(アレルゲン免疫療法)

アレルゲンに体を慣らしていくことで、症状を根本的に改善できる可能性のある治療です。現在、実際に行われているのは舌下免疫療法で、スギ花粉症とダニアレルギーが対象となります。(詳しくは次項目でご紹介します。)


舌下免疫療法について

舌下免疫療法は、アレルギーの原因となる物質(スギ花粉やダニの成分)を少量から体に取り入れて慣らしていく治療です。続けることで、アレルゲンに触れても症状が出にくい体質へと変えていくことが期待されます。これまでの治療が「出てきた症状を抑える」ことを目的としていたのに対し、舌下免疫療法は「アレルギーを起こしにくい体質に近づける」唯一の方法です。現在、舌下免疫療法で治療可能なのはスギ花粉およびダニによるアレルギー性鼻炎です。

花粉症の自然寛解について

花粉症の症状が、特別な治療をしなくても年齢とともに軽くなったり出なくなったりすることを「自然寛解(しぜんかんかい)」といいます。研究によると、スギ花粉症の自然寛解は10〜20%程度とされており、10人に1〜2人ほどに限られます。特に40歳以降の中高年でみられやすいといわれています。これは加齢に伴って免疫の働きが変化し、花粉に対する反応が弱まるためと考えられています。ただし、完全に治る例は少なく、再び症状が出る人もいます。若い世代での自然寛解はあまり期待できません。

舌下免疫療法で期待される効果

舌下免疫療法を続けることで、花粉やダニに対するアレルギー症状を軽くすることができます。くしゃみや鼻水、鼻づまりといった症状が改善し、薬の使用量を減らせる場合もあります。その結果、日常生活や仕事、勉強、睡眠への影響を少なくできるのが大きなメリットです。鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版では、およそ8割前後の患者さんに有効性が認められるとされています。ただし、効果の出方には個人差があり、症状が大幅に改善して楽になる方もいれば、思ったほど効果が得られない方も一定数いらっしゃいます。効果は数か月で現れることがありますが、十分な効果を得るには少なくとも1年、安定した効果を得るには3年以上の継続が必要とされています。

治療の対象となる方

  • 検査(血液検査や皮膚テスト)でスギ花粉やダニが原因と確認された方
  • 医師の指導を守りながら、当院に月1回程度の定期通院ができる方
  • 毎日1回、3〜5年間にわたり薬を継続して服用できる方

治療が適さない方

  • 5歳未満のお子さま
  • ご高齢の方(65歳以上は原則対象外です。ただし医師が安全と判断した場合には行えることがあります)
  • 妊娠中に新しく治療を始める方(すでに治療中で妊娠された場合は継続できることがあります)
  • 授乳中の方
  • 免疫抑制剤を使用している方
  • 重度の気管支喘息がある方
  • がんや重い免疫不全の既往がある方

舌下免疫療法の副作用

舌下免疫療法では、多くの方に副作用がみられます。臨床試験では、投与を始めてから4週間以内に約8割の方で何らかの副作用が出現しました。ただし、そのほとんどは軽いもので、口の中のかゆみや腫れ、違和感といった症状です。これらは通常、数時間で自然に治まります。症状が強い場合には、抗ヒスタミン薬で対応することもあります。副作用は治療を始めた初期に起こりやすいとされています。ごくまれに重いアレルギー反応が出ることもあるため、初回は必ず医療機関で服用し、その後30分は院内で経過観察します。

舌下免疫療法薬

当院では、以下の舌下免疫療法薬を採用しています。

  • スギ花粉症:シダキュア®スギ花粉舌下錠
  • ダニアレルギー:ミティキュア®ダニ舌下錠

シダキュア®スギ花粉舌下錠の投与スケジュール

  • 重症のアレルギー反応を防ぐために花粉が飛んでいない時期に開始します。
  • 初回の内服は医療機関で行い、30分間は院内で経過観察します。
  • 投与初日から7日まではシダキュア®スギ花粉舌下錠2,000 JAUを1日1回1錠服用します。
  • 投与8日目以降はシダキュア®スギ花粉舌下錠5,000 JAUを1日1回1錠服用します。

ミティキュア®ダニ舌下錠の投与スケジュール

  • シダキュア®スギ花粉舌下錠と異なり、時期を問わず開始することができます。
  • 初回の内服は医療機関で行い、30分間は院内で経過観察します。
  • 投与初日から7日まではミティキュア®ダニ舌下錠 3,300 JAUを1日1回1錠服用します。
  • 投与8日目以降はミティキュア®ダニ舌下錠10,000 JAUを1日1回1錠服用します。

舌下免疫療法薬服用時の注意点

  • 副作用が起こった場合にすぐに対応できるように、家族のいる場所や日中の服用が推奨されます。
  • 服用は1日1回、錠剤を舌の下に1分間ほど保持し、その後に飲み込みます。
  • 投与後5分間はうがいや飲食を控える必要があります。
  • 投与前後の2時間は激しい運動、アルコール摂取、入浴などは避けてください。
  • 毎日の服用を継続することが何より大切です。途中でやめてしまうと十分な効果が得られません。

その他のポイント

  • 治療効果の判定は投与開始1年後くらいを目途に行い、治療継続するかどうかを相談します。
  • 3〜5年続けることで治療を終えたあとも効果がしばらく続くことが知られています。
  • 治療を終了して数年後に再び症状が出る場合もあります。